会社員として勤めている社会人は8割以上います。会社で働く目的の1つとして当然収入を得ることがありますが、ほとんどの会社において、収入と出世は切っても切り離せない関係にあります。
しかし、最近の若手社員のなかでは「出世をしたくない」と考えている人が増えています。株式会社Cross Marketingの調査「若手社員の出世・昇進意識に関する調査」によると、20代〜30代の社員で出世への意欲がない、または出世をしたくないと回答した人は実に60%にのぼりました。
その理由は何なのでしょうか。調べていくとどうやら出世への意欲が薄れているのは若手だけではないということも分かりました。出世に対する世間の意識が少しずつ変わり始めているようです。
もくじ
出世をしたくない若手が増えている3つの理由とは
出世をしたくない若者の意識について探っていくと3つの理由があるようです。まず背景として、定年まで同じ会社で働き続けたいと感じてる若手社員が減ってきている傾向にあります。内閣府が行なった「世界青年意識調査」によると、「職場に強い不満があれば転職することをやむをえない」と回答する割合は日本では57.5%です。(フィリピンやタイ、韓国では回答率が40%以下です。)
欧米諸国は「転職をするべきである」という項目に大多数が回答しているのが対照的ですが、アジアのなかでは日本は転職を容認する国になっているということがいえるでしょう。転職という選択肢が一般的になっているなかで、我慢をしてまで出世をしたくないと考えている若手が多いのはうなづけますよね。
では若手が抱える3つの不満とはなんなのでしょうか。
出世をしたらプライベートの時間がなくなるから
ワークライフバランスという言葉が日本でも浸透してきた感があります。仕事は本来、家族との時間や自分の趣味の時間を充実させるためのお金を稼ぐためのものなのだから、より充実した人生を送るためには仕事の時間とプライベートの時間のバランスを取ろう、という考え方です。
労働時間や残業時間のランキングはネット上でも紹介されていますが、実際の状況を正確に把握できていない可能性もあります。そこで過労のデータに着目をしてみましょう。過労死はいまや国際語となり「Karoshi」は英単語辞書にも載っているほどです。厚労省によると、2017年には過労が原因とされる死亡事故や自殺が191件あり、日本の労働問題は世界的にも取り上げられています。
そうしたニュースがメディアで報道されるにつれ、「自分は気をつけないといけない。」と警戒する若手が増えていると考えられます。ストレスで心身を壊すよりは仕事は定時で上がり、プライベートの時間を確保したいという若手が多いようです。出世をすれば残業時間が大幅に増えるため、出世を拒む人が増えているのですね。
がんばって出世をしたところですぐに給与が増えないから
次に出世をしても給与が思うように増えないと感じている若手が多いようです。これは本当なのでしょうか。実際に賃金カーブと呼ばれる昇進によって増える給与額を見てみると、やはり出世をすることで収入アップすることは間違いないようです。出世をして課長以上のポストにつけば、一般社員でいるよりも1.7〜2.2倍の収入を手にすることができるといわれています。
それでも若手が出世をして給与が増えないと感じているのは、出世をして管理職になることで残業代が支給されなくなるため、残業代をもらっている今のままで良いという短期的な視点が原因ともいえるでしょう。管理職につけば管理職手当てがつきますが、平均的な手当額は5万円前後と言われています。もし、残業手当がこれよりも多いようであれば管理職に昇進して一時的に給与が下がるのは確かですね。
出世をすることで仕事のストレスが倍増するから
出世をしたくない一番の理由はおそらく「出世することで生じるストレス」を避けたいという理由からではないでしょうか。これは先ほどの過労の問題とも関連してきますね。特に管理職となり部下を持ち始めると自分のミスでないことで責任問題を問われることだってあります。それにより会社に多大な損害を与えたり自分の信用を失うことはしたくない、と考える若手社員が増えてきているのではないでしょうか。
また上司のなかには休日も出勤して残務処理をしたり、得意先との交流に時間を割いている人も多いです。「休日まで仕事の人間関係を考えなければいけないのは嫌だ!」と考える若手も多いと考えられます。
一般的に収入とストレスは比例するものですが、多くのストレスを抱えるようになっても給与が思うように上がらないことに納得がいかないこともあるのでしょう。
出世を望まない中堅社員も増えてきている理由とは
若手が出世をしたくない、と増えてきた理由と時代背景について説明をしましたが、企業を支える中堅社員と呼ばれる人たちはどうなのでしょうか。リクルートマネジメントソリューションズによる2017年の意識調査では、管理職になりたくないと回答した中堅社員が、出世意欲があると回答した中堅社員の割合を上回りました。(中堅社員は入社7年目以降としてアンケートを実地)
これには若手と違った背景がありそうです。まず、中堅社員は自分の天井が少しずつ見えてくる段階だからというのもあるでしょう。同僚との出世争いが始まり、どこまの地位にいけるか、どれだけの収入の伸びがあるのかがはっきりしてくるにつれて「自分には出世の可能性は少ないし、もう別に出世をしなくてもいいや。」と感じてしまう人が一定数いるのも事実です。
同時に考えられるのが、ビジネスの国際化とIT化が進むことで管理職だけではすべてを把握できなくなってきたのに、依然として職場では昔ながらの管理職としての役割を押し付けられる、という問題です。
管理職は若手新入社員の教育をするアドバイザーとしての役割を期待されることが多いですが、英語などの外国語やSNSを利用したPRは若手世代が幼いころから触れている分、彼らに分があります。
上司であっても部下に分からないことを聞ける社風があればよいのですが、いまだ管理職の人材に完璧でいることを求める企業は多く、中堅社員はそういた状況に苦しんでいるという実態もあると考えられます。
「出世をしたくない」ではなく「出世をしなくてもいい」時代になった
さて、若手だけではなく中堅社員も出世に対してはさまざまな考え方がみられるようになってきました。こうした背景には若手や中堅社員特有の問題だけではなく、時代の変化も影響していると考えられます。
以前のように終身雇用制が一般的であれば、収入を得るためには出世をするしか方法がありませんでした。大手企業でもグローバルな競争のなか経営が傾いているところが多い今日、出世をしたところで一生安泰ではない、という風潮が漂っている感もあります。
何より、今では出世をする以外に収入を得る手段が増えてきたのもこの時代ならではの特徴ではないでしょうか。「出世」をしないことの最たるデメリットは収入の増加が望めないことでしょうが、今、出世という道を選ばない人が新たに求める収入源とはいったいなんなのでしょうか?
出世をしたくない人が考えるべき新たな収入源:転職と副業
1つ目は転職をすることです。もちろん昔から給与待遇に不満があれば転職をする手はありましたが、今はスマホ一つで転職の機会を探すことができるため昔に比べ格段に転職のハードルが下がっていると言えます。また、よりよい待遇を求めて転職をすることが少しずつ当たり前になってきています。出世をしたくないと考える背景には、「出世という大変な競争をする前に、自分をもっと評価してくれるところがあるのではないか」という心理が働くのかもしれません。
2つ目は副業(複業)が社会的に容認されるようになってきたことがあります。クラウドソーシングによりスマホやPCがあれば自宅でも仕事ができるようになりました。またairbnbやメルカリなどのシェアリングビジネスが広まりをみせ、自分で収入を得ようと思えば得られる時代になったと言えます。
加えて、起業へのハードルも下がりました。クラウドファンディングを活用すれば、自分に資金がなくても協力を募ることができるからです。こうした自分のビジネスを持つハードルが下がることで、出世以外に収入を増やす選択肢が現れた、というのも特筆すべき点です。
まとめ
単なる甘えとして一蹴されてしまいがちな出世を望まない若手社員ですが、実は時代や価値観の変化の影響を強く受けていることがお分かりいただけたかと思います。一方で中堅社員も、「何でも分かっているべき」という古いリーダー像を押し付けられることに限界を感じています。
何より、仕事だけでなく人生そのものを充実させるというワークライフバランスは昭和式の出世一辺倒の考え方に大きな変化を与えています。出世を望まない若手は単に競争を好まないわけではなく、人生という枠組みで仕事が占める割合を冷静に調整しようと試みているのかもしれません。
ただ、出世を望まない人が直面する課題は収入の確保です。具体的に会社以外の収入源がないまま「出世をするつもりもない」という若手社員は、一度自分が会社以外で自分がどれだけ仕事ができるのかにトライをしてみるのも良いでしょう。自分の社会的な価値が客観的に分かれば、もう少し今の会社で頑張って実績を残した方がいい場合だってあるからです。