企画書や資料の出来栄えが気になって何度も見直してしまう、手を抜かず取り組んでいるのに成果が出ない、要領はいいはずなのに仕事がはかどらない……。こういった症状に悩む人は完璧主義かもしれません。
完璧にこなそうとするからこそ、仕事の推進力が落ち、成果につながらないのです。仕事で100点を取るのは当たり前と考えがちですが、実は、仕事で100点を取る必要などありません。スピード感をもって仕事をこなす能力が求められる今の時代、80点主義こそが仕事をうまく進める方法です。
もくじ
本当の「80点主義」とはどういうものか?
「80点主義」と聞くと、どのようなイメージが浮かぶでしょうか。やる気がない、手を抜いている、事なかれ主義、不真面目など、もしかするとマイナスイメージが多いかもしれませんね。しかし、本当の80点主義にはとても高度な、ビジネスマンが身に付けるべき思想とスキルが詰まっています。仕事だけではなくプライベートでも活用できる80点主義。
言葉のイメージに惑わされず、どういった考え方・手法なのかしっかり学んでいきましょう。
原点は自動車大手・トヨタの企業思想
日本を代表する自動車メーカーのトヨタは、車の製造過程で発生するさまざまな問題解決に取り組んできました。その中で生まれたカイゼン、時間術、片付けなど多くの手法は、「トヨタ式」として多くの人に実践されています。
80点主義の原点もトヨタにあります。この考え方を打ち出したのは、初代カローラの開発主査であった長谷川龍雄氏です。長谷川氏が唱えた80点主義には4つのポイントがあり、まず「全項目100点を目標とする」、2つ目は「100点取れない項目のうち、いくつかは90点を取る」、3つ目は「90点が取れない項目でも合格点の80点は必ず取る」、最後は「100点の項目が1つもない、80点以下の項目があるのは落第」です。
自動車開発の現場で生まれた「合格点を取るのは当然、しかし全てが80点のままではだめ、いくつかの項目では90点以上を確保する」という企業思想が80点主義なのです。
平均点を目指すのが80点主義ではない
トヨタで受け継がれてきた80点主義は、平均点を狙う手法ではありません。4つのポイントでも挙げましたが、全項目のうち100点が1つもない、1つでも80点以下の項目があるのは落第です。これは、なかなか厳しい目標ではないでしょうか。
学生のころ、部活動などで「100%の力を出したければ120%の努力をしろ」と言われたことはありませんか。実体験として身に染みている方は多いと思いますが、この言葉の通り、努力した量に見合う成果が必ず手に入るとは限らないのです。
80点主義においても同じで、最初から平均点を目指していては80点を取ることはできません。努力した先に80点主義が見えてくるのです。全てにおいて100%の努力をして初めて、80点の結果がついてくると考えましょう。
仕事で100点を取る必要がない理由とは?
「100点を目指しながら、各項目で合格点を取っていこう」という80点主義は、手を抜くための方法ではなく仕事に推進力を与える方法です。
「仕事なのだから100点を取って当たり前」という考え方もあるでしょう。しかし、命に関わる医師・看護師や、伝統工芸の職人でもない限り、常に100点を求められる仕事などごくわずかです。どの仕事にどのレベルの完成度が求められているのかを判断する力、これも優秀なビジネスマンに求められる能力と言えます。
仕事は学校のテストや採点競技ではない
学校のテストや、フィギュアスケートなどの採点競技であれば、1点1点の根拠が明確で100点を狙うこともできるでしょう。しかし、仕事はテストや採点競技とは違って明確な基準がありません。
企画書や資料などの書き方、プレゼンの仕方、また仕事上で発生する課題や問題など、仕事に対するベストアンサーは1つではなく人それぞれ解決方法が異なります。また、仮に模範解答があったとしても、10人が実行して10人とも成功するかと言われればそれもありません。
これが、仕事で100点を取る必要のない理由の1つです。学校のテストや採点競技のように誰もが分かるような採点基準のない仕事においては、100点を取るという考え方を見直す必要があるでしょう。
仕事で100点満点が出ることは100%ない
仕事には、企画書や報告書のフォーマット、社内で使っているシステムの利用方法などルールはあっても採点基準はありません。そして点数をつけるジャッジ=上司や顧客、同僚の評価基準もバラバラです。
物事の考え方や受け止め方は人それぞれで、好みもあります。社内で何人もが確認して高評価を得た企画書が、いざ本番になってみると顧客から不評だったなどよくある話です。自分が自信を持っていた仕事が、ある人にとっては50点だったり、また別の人にとっては10点だったなど当たり前のこと。ジャッジである上司、顧客、同僚らが全員100点を出すことなど100%ありえません。追い求めても永遠に得られないもの、それが仕事における100点満点なのです。
「完璧主義」と「完璧な仕事」は違う
仕事にはいくつかの評価項目があります。作業の正確性、プロジェクトへの貢献度、プレゼン能力、資料作成のスキル、顧客との関係性などさまざまです。完璧主義の人は全ての項目で100点を目指しますが、これは現実的ではありません。全項目で100点を取ることが、完璧な仕事ではないのです。
完璧な仕事とは、全体のバランスを見ながら各項目で合格点を取り、調整を加えながら最大限の結果を出すもの。完璧主義に陥ると俯瞰的に仕事をとらえることができなくなり、1つの項目にこだわりバランスが崩れます。そうなると、課題や問題の発見が遅れて仕事の効率やスピードも落ちていきます。
完璧な仕事に「完璧主義」は不要。仕事がはかどらずに悩んでいる人は、この点を見つめ直してみましょう。
100点を1つより、80点を2つ取ろう
仕事ができると言われる人は、1度に複数の仕事を効率よくこなしています。1つの仕事で100点を追い求めるために時間を使わず、同じ時間で80点の仕事を2つこなしているのです。
前述したように100点を求められる仕事はそう多くありません。人によって評価の基準が異なるため、そもそも100点が出ることはないのです。学校のテストや採点競技であれば80点と100点は天と地ほどの差がありますが、仕事における20点の差はごくわずかです。
100点を取るための時間と労力は評価もされず無駄になるに違いありません。
忙しい職場であればなおさら、効率の良さが求められます。80点主義に徹して仕事の質を担保しながら仕事の量をこなす、これが仕事のできる人です。
人間関係も80点主義でうまくいく
完璧主義の人は、仕事でもプライベートでも完璧を目指しがち。それはとてもストレスのかかる生き方です。何事にも完璧を求めず「平均点で十分」と思うことができれば、比べ物にならないほど心が軽くなります。
また、自分だけではなく他人にも完璧であることを求めるとトラブルになりかねません。計画通りに仕事ができない同僚や後輩を糾弾してしまったり、プライベートでも予定通りに行動できない友人を非難してしまったり、いつの間にか煙たい存在になっているかも……。
自分自身を含めて100点満点で完璧な人間はいない、そう考えるだけで人への接し方も変わり、人間関係も今まで以上にうまくいくはずです。 80点主義は人間関係においても有効な考え方と言えます。
まとめ
どれほど優秀な人でも1人で仕事はできません。1つの仕事には多くの人が関わっており、多くの人があなたの仕事を評価するのです。そう考えれば、仕事において100点満点などあり得ないというのも納得できるのではないでしょうか。
80点主義は手を抜いて平均点を取る手法ではありません。まずは80点の合格点を取っておき、あとは上司や顧客など周囲と意見をすり合わせながら、100点すなわち相手が求める品質に近づけていくという手法です。
80点主義を実践すれば、仕事をこなすスピードはもちろん、周囲との調整力や仕事への対応力も格段に上がります。どのスキルもビジネスマンにとっては欠かせないもの。身に付けて磨きをかければ、自分自身の市場価値がアップすることは間違いありません。