「働き方改革」という言葉がさけばれるようになった日本社会。しかし、その働き方改革を成し遂げていくための方法や制度にはまだまだ種類が少なく、改革という言葉を肌で感じ取っている方は少ないのではないでしょうか。だとすれば、今回ご説明させていただく「ホワイトカラーエグゼンプション」という制度は、その働き方改革を一層推し進めるとともに、私達労働者が真剣に考えなくてはならない改革の第一歩といえるでしょう。ホワイトカラーエグゼンプションをご存知でない方、働き方改革に興味がおありの方、そして日々の労動に不満や疑問を感じることがある方はぜひご覧ください。
もくじ
言葉の分解、ホワイトカラーエグゼンプションの意味を知ろう
制度の内容をご説明する前に、まずは聞き慣れない方も多いかもしれないホワイトカラーエグゼンプションという言葉そのものについてご説明させていただきます。
ホワイトカラーエグゼンプションという言葉は、「ホワイトカラー」と「エグゼンプション」という言葉から成ります。前者のホワイトカラーは労働者の働いているスタイルのことを指し、端的に言えばスーツやワイシャツなどを着てデスクワークをしている方のことを意味します。ブルーカラーという言葉は作業着などを着た肉体労働をしている方のことを意味します。ここまではごくごく一般的な認識かと思います。
後者のエグゼンプションは「免税」という意味を持ちますが、ホワイトカラーエグゼンプションにおいては「免除」や「適用除外」という意味が最も適しているといえるでしょう。ちなみにエグゼンプション(exemption)に似た言葉で、例外という意味を持つ「エクセプション(exception)」という言葉もあり、「ホワイトカラーエクセプション」と認識されている方もいらっしゃいますが、これは誤りです。カタカナ文字は覚えにくいという方もいらっしゃるかもしれませんが、今回を機にぜひ覚えておいていただけたらと思います。
今回のホワイトカラーエグゼンプションという言葉はそのまま直訳すると「デスクワークをする人の適用除外」という意味になります。それでは次項からホワイトカラーエグゼンプションという制度の内容についてご説明させていただきます。
働き方を変えるかもしれない、ホワイトカラーエグゼンプションとは?
ホワイトカラーエグゼンプションという制度が導入されることで、ホワイトカラーで働いている労働者の働き方や評価のされ方、そして労動そのものの辛さに至るまで、色々な事象が大きく変わることが予想されています。その言葉が指す通りホワイトカラーで働いている方に影響が予想される制度ですが、ブルーカラーの労働者にとっても無縁の制度ではありません。なぜなら、このホワイトカラーエグゼンプションの導入によって、日本という国そのものが働き方改革に前のめりになり、ホワイトカラー、ブルーカラーの区分に関係なく、様々な分野での改革を進めていく可能性があるからです。その改革が労働者の100%にとって良いものであろうとなかろうと、です。
ホワイトカラーエグゼンプションで緩和・免除される規制
ホワイトカラーエグゼンプションが導入されると、様々な規制が緩和・免除されます。この制度が掲げるものは大きく分けて下記の2つです。
- 労働時間の規定の緩和
- 割増料金の支払い免除
この2つから何がどうなるかといいますと、ずばり「残業代がゼロになる可能性がある」ということです。日本のホワイトカラーの労働者は、「裁量労働制」という働いた時間によって給料が決められていることがほとんどです。1日に決まった時間を働き、残業をした場合はその時間分だけ割増で給料が支払われるようになっています。
しかし、労働時間の規定が緩和・割増料金の支払い免除となれば、「働く時間に規定がなくなる」、「働いた時間で給料の金額は左右されない」という事態になることが予想されます。これは、「残業をすることになっても割増料金(残業代)を支払わなくても良い」ということにつながっており、結果的にどれだけ長く働いたところで残業代がゼロになってしまうことを意味します。これがホワイトカラーエグゼンプションを「残業代ゼロ制度」と揶揄されている理由であり、多くの方の非難を集めている理由です。
これだけを鑑みてみると、労働者にとっては不利益しかないように見えるホワイトカラーエグゼンプション。次項でどうしてこの制度の導入が検討されているのかを、具体的に説明させていただきます。
ホワイトカラーエグゼンプションで求められる成果主義
ホワイトカラーエグゼンプションが導入される背景には、「成果主義」があります。すでにお話した通り、日本のホワイトカラーの労働者は裁量労働制によって時間と給料が紐付けられています。しかしこの裁量労働制は、少々辛辣な言い方をしますと「100%の力で働いていなくても、決まった時間デスクに座っていればその分だけ給料がもらえる」ということを意味します。これは雇う側にとってはデメリットでしかなく、生産性が著しく低くなることを意味しています。
ここで予想される労働者の意見が以下のような意見でしょう。
- 「いやいや、どうせ本気出して働いても給料が大きく変わることはないじゃないか」
- 「仕事をこなせばこなすほど、新しい仕事が増えるだけだ」
- 「真面目に働けば働くほど損だ」
- 「もらえる給料の金額が同じなら、できるだけ手を抜いて楽をした方が得じゃないか」
どれもその気持ちは痛いほど理解できます。日本の労働環境は「頑張れば頑張るほど大変なことが増えるため、できるだけ頑張らずにほどほどの給料をもらっていた方が無難」というのが現状です。
「では、その現状を変えてしまおうではないか」というのが、今回ご説明しているホワイトカラーエグゼンプションの大義名分です。日本は裁量労働制による評価から、成果主義による評価へと移り変わるかもしれないのです。
ホワイトカラーエグゼンプションが掲げるメリット
一見すると労働者にとって不利益でしかないように見えるホワイトカラーエグゼンプション。この制度のメリットは前述の成果主義への移行に伴う、ホワイトカラーの労働環境の活性化です。成果主義になるということで、労働者は今まで以上に仕事に熱心に取り組む必要が出てきます。しかし、熱心に取り組めば取り組むほど給料が上がる可能性があるため、「働く分だけ頑張りがいがある」ということにつながります。これまで存在していた仕事を真面目にこなす労働者と手を抜いていた労働者との不公平さも埋まることも期待され、日本の経団連もかなりの期待ができるとの見方を示しています。
さらには「仕事をすればするほど成長できる」という付与効果もあり、労働者の育成というメリットも含まれています。これは会社にとっても大きな利益でしょう。労働者がこれまで以上の能力でこれまで以上の仕事をこなしてくれるようになれば会社の利益が上がります。ひいては国益にも大きな好影響がもたらされると考えられており、競争力・生産性の低下がさけばれる日本という国においては、この成果主義がこれからの未来を切り開いてくれるとされているのです。
ホワイトカラーエグゼンプションのデメリットと表裏一体性
上記であげたメリットがある一方で、労働者側からは多くのデメリットが投げかけられています。やはりその最たる例はすでにご紹介している「残業代ゼロの可能性」でしょう。会社によって振れ幅はあろうと、ある程度は守られていた労働者を守っていた規則が揺らぐ可能性があるのです。なかには「残業代による収入があることを見越して生活をしている」、「残業代を含めてローンを組んでいる」という方もいるため、ホワイトカラーエグゼンプションにより残業代がカットされるような事態になると生活が立ち行かなくなる方が出てくるおそれがあるのです。また、成果主義による給料の向上、成長の機会の増加という言葉を大義名分に、一層の長時間労働ややりがい搾取などの発生も懸念されています。
つまり、ホワイトカラーエグゼンプションはメリットとデメリットの間に立つ制度であり、表裏一体ともいえる制度でしょう。ある者には利益があり、ある者には不利益がある…。しかしそれも、受け取り方によっては働き方改革の名の下に、とても意義のある制度のようにも映るわけです。非常に難しい制度であるため、2005年の経団連による提言から今日に至るまで、議論はされてきても多くの反対意見により実現には至っていません。
まとめ 議論の余地があるホワイトカラーエグゼンプション
ホワイトカラーエグゼンプションは労働時間の規定の緩和や割増料金の支払い免除により、ホワイトカラーの労働者を成果主義に導く制度です。これにより、日本の労働環境は活性化し、競争力・生産性の向上が期待されています。しかし、その一方で残業代のゼロややりがい搾取といった危険性もはらんでおり、多くの労働者の反発を招いています。働き方改革を進めるのは結構なことかもしれません。日本の凝り固まった社会を変えていき、多くの方がより良い環境で働くためには、改革は必至でしょう。
少しずつ改革が進んでいくことにより、国民と国家双方が得をするような社会を築き上げるということこそ、政府の存在意義ともいえます。ただ、このホワイトカラーエグゼンプションにおいてはまだまだ議論の余地があり、すぐさま導入できるようなものではないでしょう。