ビジネススキル

成果ではなく過程を評価 組織を成長させる「ブレインストーミング」

人工知能などの発展に伴って、現在の仕事の半分近くが、今後10~20年後に自動化される可能性がある……。2014年、オックスフォード大学の研究者の予言です。

そんな中、機械には苦手な、クリエイティブな仕事を進めるテクニックとして、近年注目されているのが「ブレインストーミング」。元々はアイデアを整理して形にするための技術でしたが、会議の過程に注目することで、組織の創造性を高めるという別の価値が、見直されつつあります。

来るべきAI時代に備え、ブレインストーミングを習得し、どこでも働くことのできる人材としてキャリアアップしましょう。

もくじ

今求められる「クリエイティブ」なチーム

2018年現在、機械はますます技術の進歩を遂げ、人間の代わりに仕事をするようになっています。

例えば会計や簿記の作業は、現在ソフトによってほとんどが自動化されています。入力されたデータの集計だけでなく、経営状況を判断することも可能です。給与の計算や、簿記会計など、会社の柱と思われていた仕事はすべて今後無くなる可能性があります。

一方、判断された経営データを基に、新しい商品や事業を生み出すことは、機械には難しいようです。「アイデアを生み出し形にすること」、これは人間が機械より得意な分野です。

アップルの設立者の一人、スティーブ・ジョブスは、発明が起きるきっかけとして、仲間同士での廊下の立ち話や思い付きの会議をあげています。アイデアと発明を生むためのチーム作りは、これからの時代益々重要なスキルとなるでしょう。

創造性を高める4つのルール

ブレインストーミングは、そうしたアイデアを生み、形にするための会議方法として発明されました。1953年に、アレックス・オズボーンの著書で発表されると、その方法が全世界に広まりました。60年以上前の方法でありながら、その内容は古びることがありません。

現在では改良が進み、目的によって人数や用意する道具が変化し、班分けを行うなど様々なバリエーションが発明されています。

あらゆるブレインストーミングに共通なルールとして、守るべき4つの原則があります。

結論厳禁 発言を楽しむ

ブレインストーミングは意見交換をする中で、アイデアをたくさん出すのが目的の一つです。そのため、他の人が出した意見に判断を下したり、問題点を指摘することは後にする、というルールです。批判厳禁、判断延期等と呼ばれることもあります。

これは、判断や批判が悪いということではありません。アイデアを出す段階とそれ以降をしっかり区別するということです。そうすることによって、多くのアイデアを集めることができます。言い換えれば、発言を皆で楽しむということです。

例)

× そのアイデアは、予算や人員の面で問題が多いようですがどう思いますか?

〇 そのアイデアを実現するために、予算や人員を~のようにして集めたらどうでしょう?

自由奔放 笑われそうな意見ほど貴重に

ブレインストーミングのもう一つの目的は、自分一人では気づけないような考え方や視点を取り入れることです。そのためには、一見実現が難しそうなアイデア、議題とは関係のなさそうな意見、冗談じゃないかと笑ってしまいそうな意見こそ大事にします。

それだけでは無意味に思えても、後述する「結合改善」の原則からより発展したアイデアが生まれることもあります。ユニークな意見程、積極的に歓迎しましょう。

例)

× 会議の場に相応しい、真面目な意見を述べてください。事実や根拠を必ず明確するように。

〇 その発想は考え付きませんでした!他にはない独特な視点ですね。この調子で進めましょう。

質より量 多くの視点で考える

重要である程、解決が難しいものです。特に、過去に前例のない問題を解決するためには、多くのアイデアが出るほど解決の可能性が高まります。可能な限り、多くのアイデアを出してもらいましょう。

ブレインストーミングは会議の後半で出されたアイデアの整理を行います。そのため、アイデアの量が多いほど、カテゴリー分けの精度が高まり、分類の過程で新たな切り口が現れることもあります。質に拘るのは後の段階であることを意識しましょう。

例)

× その意見は先ほどの〇〇や××と同じですね。他の意見はありませんか?

〇 たくさんの意見をありがとうございます。この調子で、あと7つアイデアを出してみましょう!

結合改善 混ぜたり付けたりアイデアをいじる

ブレインストーミングの参加者には、アイデアをたくさん出してもらうことも重要ですが、もう一つ別の役割があります。それは他人のアイデアをもっと良いものに発展させることです。これまでに出たアイデアの一部を変えたり、別のアイデアとくっ付けてまったく別のものに変えること、こうした発想を大切にします。

「自由奔放」や「質より量」の原則と併せることで、思いもよらぬアイデアを生むことがあります。

例)

× 今まで出されたものとは違う、別の発想のアイデアはありませんか?

〇 これまでに出た〇〇と少しだけ違うアイデアを考えましょう。××の部分だけ変えてみるのはどうでしょう?

ブレインストーミングをはじめるには? 準備~具現化まで

上記の4つの原則に基づき、いよいよ会議を始めます。ブレインストーミングは「準備」、「序盤」、「整理」、「具現化」という、大きく4つの行程を経て完了します。

全体の流れで注意する点は3つあります。第1に4原則を全員で理解・共有しておくことです。第2に各行程の目的をはっきりと区別することです。第3に会議の成否には「準備」の行程が最も重要であるという点です。

以上に注意しながら、各行程を順番に見ていきましょう。

1準備 会議の価値は準備で決まる

・メンバー

会議にあたり参加者を確保します。メンバーは、全体の進行を仕切るリーダーが1名、発言内容を書き留める書記1名、アイデアを出す参加者が3~10名、全体で多くても12名以内に収めると効果が高まります。また、部署や国籍等違う立場のメンバーが集まった方が、意見の幅が広くなります。

メンバーの役割は会議の最初に決めても良いですが、慣れないうちはあらかじめ決めておくとよいでしょう。

・会場

できるだけ発言をしやすい雰囲気を作ります。ホワイトボードや大きめの模造紙を用意し、書記は発言されたアイデアをそこに書き込みます。本番中に困らないように、マジックインキは複数用意し、書けることを事前に確かめます。

・目的

会議の議題、テーマをあらかじめメンバーに伝え、ゴール地点を明確にします(あえて議題を伝えない方法もあります)。事前に把握している情報に差が生まれると、発言が偏る、資料を読むのに時間がかかるなど、進行に支障をきたす場合がありますので注意しましょう。

・時間

会議に制限時間を設けます。質より量を重視するブレインストーミングは、制限がないとダラダラと続いてしまう可能性があります。人間の集中力が維持される、30~40分程度でまとめられると良いでしょう。

2序盤 ユーモアは発言を活発にする

準備が完了し、開催時刻にメンバーが集合したら、参加者はアイデアを発言します。

出されたアイデアは、順次書記がホワイトボード等にメモします。この際、アイデアは要約し、番号を振っておくと、後に整理しやすくなります。また、参加者全員が見えるように、文字は大きめにします。

発言が多い場合は書記を二人に増やす、内容が合っているか発言者に確認する等、臨機応変に進めます。

序盤の発言を活発化するためには、ユーモアが重要です。開催前に一言冗談をいれたり、参加者の発言が止まったら進んで突拍子もない案を発言するなど、場の緊張をほぐしておくことで序盤の進行がスムーズになります。これはスポーツではアイスブレイクと呼ばれるテクニックです。

3整理 情報の整理はアイデアを評価しやすくする

目標数の提案が出たら、あるいは時間が経過したら、一度提案を打ち切り、アイデアを整理します。内容の同じアイデアや、似たアイデアをまとめ、「社内の環境整備」「研修制度の充実」などグループ名を付けていきます。

グループの分け方が思うようにいかない時や、アイデアに補足があるような時は、参加者に意見を聞きながらやり直し、少しずつ進めます。グループ分けをすることで参加者の頭の中が整理され、アイデアの評価がしやすくなります。

グループ分けが終わったら、各アイデアに対し、実現の可能性、優先順位、組織への影響力などの観点から、参加者で評価をつけていきます。

アイデアの整理にはKJ法やマインドマップといった専門的な手法もありますので、興味のある方は是非調べてみてください。

4具現化 アイデアを形にする

アイデアの評価が終わったら、評価の高いアイデアに対し、どうやって実現するのか、具体化策を考えます。ここで初めて、予算、時間、工数、人員など様々な具体的リソースを考慮にいれた検討に入ります。

メンバーの多様性が最も効果を表すのはこの段階です。事務や管理部門の職員だけでなく、現場で働く人たちや、実際にそのアイデアを基に働く人たちがメンバーに加わっていれば、より現実的で具体的な案が出てくることでしょう。

検討の結果、現段階での実現が難しければ、同じグループで次に評価の高い案に切り替えるなど、その都度対応します。

形だけでは失敗する 無視できないポイント

以上が手順になります。一読していただいた方にはお分かりの通り、ブレインストーミングの進行そのものはシンプルですが、進行上配慮を必要とする点や、事前に準備することが多くあります。特にリーダーの役割は多く、ブレインストーミングを実施するための研修を開催する会社もあります。

効果的に進行するためには、形式を整えることはもちろん、それ以上に注意しなければならないことがあります。それは発言者が偏ること、またはほとんど発言をしない者がでてくること、これらを防ぐことです。これは、参加者に上下関係がある場合に、特に起こりやすくなります。

ブレインストーミングは、多くのアイデアを集めるために、活発な提案を呼び起こすものなので、できるだけ全員から発言を引き出せるよう工夫しなくてはいけません。

うまくいかない…発言を促す発展形3つ

そうはいっても、最初の頃はうまく進行できないことが間々あります。そうした場合の対策として、ここでは3つの発展形を挙げます。

1順番提案法

会議開始後、参加者に紙を配り、思いついたアイデアをメモしてもらいます。制限時間は5~10分程度とし、時間経過後に時計回りで順番に発表してもらいます。

2スリップライティング

アイデアを発表する際に、口頭ではなく、メモ用紙や付箋、フリップを使ってもらうやり方です。特に付箋の場合、アイデアを整理する際に張り替えて並び替えることができるので、視覚的にも分かりやすくなります。

3疑問列挙法

本来の原則とは逆に、テーマや議題の疑問点や問題点を列挙し合うものです。テーマそのものの課題や、そもそもの問題の立て方を考え直す際に使われます。

ブレインストーミングは、その他にも多くの応用・発展形があり、企業だけではなく研究や教育の場でも用いられています。

ブレインストーミングの本当の効果

一方で、近年ブレインストーミングの効果について疑問を発する研究も発表されています。米のいくつかの大学の見解では、集団で会話するより個人でバラバラに意見を出し合った方が、アイデアを集める点では効率的だとされています。また、人数が増える毎に効率が低下するとの研究もあります。

しかし、アイデアの生産性とは別の部分での評価もあります。それは組織を育てるという視点です。

ブレインストーミングの目的は「全ての参加者に多く発言してもらう」ことです。そのために、事前ルールの共有、役割分担、道具の手配など、開催にあたり入念な準備がメンバーに要求されます。

つまり、ブレインストーミングを成立させるための過程が、仲間をいかにアシストするか、チームの雰囲気をどのようにコントロールするかという、組織の創造性を高めるトレーニングにつながっているのです。

まとめ

ブレインストーミングは、ルールを守り正しく運用することで、自分だけでは気づけなかったかもしれない、多くのアイデアを生み出すことができます。しかし、その真の価値は、会議を成立されるために入念な準備と意思疎通を行うこと、これらを通じてより創造的な組織や仲間を作ることにあります。

なにより、仲間の発言を促すために工夫を凝らすことは、非常に楽しい試みです。日頃、会議は無駄ではないかと感じている方々には、是非取り組んでもらいたい試みです。

AIによる仕事の自動化が進む現在、チームの創造性を上げることは、ビジネスマンにとって大きな武器になります。ブレインストーミングの方法を学んで、どんな風に仕事が変化しても働くことができる、そんな成長のきっかけをつかんでください。

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