職場の悩み

韓非子から学ぶ、上司と部下の仕事上のより良い関係づくり

『韓非子(かんぴし)』は、中国の法家である韓非の著書です。この有名な本は、中国の名だたる王、政治家、法律家、学者などに愛読され、それぞれの時代で参考にされました。今でも、『韓非子』に書かれたことを実践する経営者も多いと聞きます。その内容は分かり易い説話で教訓を引き、権力をどのように扱うか、それを保持するにはどうすればいいか、という支配者側の考え方についてまとめています。それが現代でも経営の参考になるからこそ、多くの経営者が読むのでしょう。

特徴的な思想は性悪説であることです。人は「自分の利益のために動く」ものである、という中心的な考え方がそこにあり、そのために「人は法によって抑えるべきである」と論じています。

今でも『韓非子』を崇高する人が大勢いる一方で、果たして本当に現代の組織でも当てはまる考え方なのか、今の世の中の仕事に活かせるのか、と疑問に思う人もいることでしょう。「性悪説」という点で、相容れない考え方の人もいるかと思います。そこで、今一度、『韓非子』ではどのようなことが主張され、現代の若いサラリーマンは何を望んでいるのか、これを見てみたいと思います。

『韓非子』の主だった主張はかなり特徴的でとんがっている

ここで、『韓非子』の中のいくつかの主張を見てみましょう。『中国の思想 第一巻 韓非子』から、特に組織や仕事に関係の深いものを取り上げます。

  • 組織掌握の肝は「法」と「術」である。(「法」は法律、「術」はその運用方法)
  • 君主は、賞罰を自らが行うこと。
  • 君主は人を信じてはいけない。災いは身内から起こる。
  • 臣下に気を許し、隙を見せてはいけない。

これらの教えだけでも、韓非は相当な人間嫌いだったのではないかと邪推したくなるほど、激しい主張であることがわかります。基本的には、部下を信用するという考え方はなく、あくまでも「法」で縛り、それを破れば「厳罰」である、としています。また、それに輪をかけるように、このような主張もあります。

  • 君主は、自分の心を見透かされてはいけない。
  • 一番頼りになるのは、自分以外にない。

信頼できるのは自分以外にはいない、他人に全てを委ねてはいけない、とする主張です。当時の中国が、偽りや裏切りの横行した世の中で、それによって政治が混乱したり、王の交代があったりするほどですから、このくらい疑心暗鬼になるのも当然と言えば当然でしょう。このような主張を持つ『韓非子』ですが、現代のサラリーマンの仕事を考えたときに、この思想を当てはめていくことはできるのでしょうか。

最近の若いサラリーマンの仕事に対する意識を知る

2017年に、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が『2017(平成29)年度 新入社員意識調査アンケート』を、新入社員1,300人に対して実施しています。その調査の結果ですが、新入社員にはこのような意識があることをまとめています。

  • 自分ファーストである

「給料が増える」ことよりも「残業がない・休日が増える」ことが優先で、「私生活に干渉されない」ことを重要としています。決して仕事をしたくないわけではなく、「目標を与えられ達成に向けて頑張りたい」という人が8割いますので、仕事に対する意欲はあります。

  • 理想の上司は「寛容型」で親しみやすさと辛抱強さを求める

自分を理解してもらいたいと思う気持ちが強いので、上司に対しては、広い心で受け入れ、自分の成長を温かく見守ってくれる上司を期待しています。

もう一つの例で、厚生労働省のアンケート結果もあります。平成26年5月に報告された、厚生労働省職業安定局の『働きやすい・働きがいのある 職場づくりに関する調査 報告書』では、「評価処遇・配置」、「人材育成」、「業務管理・組織管理」などのカテゴリーで、これらが整備されている職場か、そうでない職場かによって、従業員が働きやすさをどのように感じているか、という調査です。

  • 「評価処遇・配置」では、 「本人の希望ができるだけ尊重される配置」を実施されている場合と、それらが実施されていない場合とを比べ、「働きがいがある」又は「どちらかといえば働きがいがある」と回答する割合が20ポイント以上高い。
  • 「人材育成」では、 「自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修」を実施されている場合と、それらが実施されていない場合とを比べ、「働きがいがある」又は「どちらかといえば働きがいがある」と回答する割合が20ポイント以上高い。
  • 「業務管理・組織管理」では、「各自に与えられた仕事の意義や重要性についての説明」「従業員の意見の会社の経営計画への反映」「提案制度などによる従業員の意見の吸い上げ」「経験が浅い社員に仕事を任せ裁量権を与える」を実施されている場合と、それらが実施されていない場合とを比べ、「働きがいがある」又は「どちらかといえば働きがいがある」と 回答する割合が20ポイント以上高い。

このように見ると、従業員は自分を認めてもらい、主張を聞いてもらい、正しく評価される組織であれば、満足度は高いと考えていいようです。いかにも今風の風潮とも思えます。人は自分の働きを認めてもらいたいものですし、正しく評価してもらいたいものなのです。そして、それに見合った報酬があれば、仕事に満足するのです。

『韓非子』の主張と現代の従業員の相容れるポイントは、君主の寛容さにある

『韓非子』では、君主は臣下を信じるな、臣下に甘い部分を見せるな、と厳しい対応を求めます。一方、現代のサラリーマンは、自分を大事にし、自分を認めてくれる寛容な上司を求めています。一見、解離があるようにも思える両者の意見ですが、これは、どこかで折り合いをつけるところがあるのでしょうか。『韓非子』でも、このような主張もあります。

  • まず与える、そして取る。
  • 相手の利益をしっかり守る。

他人を動かすには先に得をさせてやれ、としています。決して自分だけが良ければよいわけではなく、周囲の人間も敵さえも得となるような配慮が必要なことも述べています。そう考えると、この部分が両者の折り合いをつけられる部分です。

君主、つまり現代の上司は、従業員の求める寛容さを「まず与える」、そして「相手の利益をしっかり守る」、そうやって従業員の満足度を高めるのです。仮に本当の意味で上司が部下を信じていないとしても、部下に信用させ、ビジネスライクにWin-Winの関係を築けるのであれば、これこそ『韓非子』の求める理想の上司、理想の君主なのではないでしょうか。

まとめ:上司は、部下を信じている姿勢を貫き通す覚悟がいる

自分を偽り、本当は部下を真に信じていないのに信用している振りをする上司と、自分ファーストで上司に寛容さを求める部下の関係は、客観的に見るとこれほど違和感を感じる関係はありません。本当の信頼関係を築けない状態で、良い仕事はできるのか?と思ってしまう向きもあるでしょう。しかし、今の時代に仕事で求められているのは、このくらいクールでドライで、プロフェッショナルな関係なのではないでしょうか。

上司も部下も、それぞれが仕事にプロとしての責任を持ちながら、結果にコミットしていく。そのために上司は部下に厳しくあたり、部下は上司に寛容さを求めながらも、プライベートと仕事のメリハリをつけて結果を出すのです。

『韓非子』の説く理想の上司は、部下に厳しくあたりますが、一方で自分が部下に甘く見られないように自分自身をも厳しく律するのです。その姿勢が、部下にとっても学び教えられる存在となることでしょう。それが部下の成長の糧となっていくのです。今の時代だからこそ『韓非子』の説く世界での職場関係が求められているのではないでしょうか。

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