キャリアアップ、よりよい待遇の職場への転職、結婚などの生活上の変化、など理由はいろいろありますが、会社に勤めている以上退職のタイミングはやってきます。
しかし問題は会社がそれをすんなり認めてくれない場合です。どうせなら、穏便に辞めたくても、そうさせてくれない時にはどうしたらよいのでしょうか。
そこでここでは、そのような場合にどう会社と上司を納得させるのか、それが無理な場合はどう強行突破するのか、という点についてご紹介します。
もくじ
穏便に退職するための4つの鉄則
まずできれば会社が退職させてくれない状況に持ち込まないことが最善の方法です。
なぜなら、転職先によっては元居た会社との商談が発生したりアライアンスを組む必要が出てくる場合もありますし、転職面接をした会社が元の会社に仕事状況の確認の電話を入れることもあるからです。
それらの場合に、好意的に商談ができたり、評価をしてもらうには穏便に辞めておくに越したことはないからです。ここではそのための4つの鉄則をまずご紹介します。
直属の上司に個室で改まって話をする
まず話をするのは直属の上司です。決して、その上の役職の人に上司を飛び越えて相談してはいけません。それは上司の「部下管理能力」の否定につながってメンツをつぶし、最初から問題をこじれさせてしまいます。そうなると仮に退職にOKが出ても引き継ぎなどに協力してくれない可能性もあります。
そして話は、個室などで「改まった場」を設けて切り出すことが肝心です。これも決して飲んでいる席で話のついでにする、というようなことをしてはNGです。それをすると、相手は「そんなに簡単な話じゃないだろう」と非常に感情的にネガティブになります。
その上で話の持って行き方は、「今ちょっといいですか」と声をかけて、上司を一緒に会議室などへ入り、外に声が漏れ合い環境で行いましょう。
繁忙期を避けて退職3か月前までに話をする
また退職の意思を伝えるタイミングも重要です。労働基準法上は2週間前に告知をすれば辞められることになっていますが、しかし次の補充などの人事異動を相手に考えてもらう余地を与えることもできれば考えましょう。その点から考えると、最低でも退職を予定している日から逆算して1か月半前。ベストは3ヶ月前に伝えることです。
さらに有給消化が残っていて、それを使ったうえで辞めようと思っているのであれば、その日数をさらに加算する必要があります。たとえば有給が30日残っていたら、最低でも2か月半前には意思を表明しましょう。
但し、その辞める時期が繁忙期に重なることは避けたほうが賢明です。その時期に辞められると当然会社は困りますから、かなり強硬に慰留してくる公算が高いです。
そしてそもそも穏便に辞めたいのであれば、そのような自分の都合だけで考えるのではなく、会社になるべく迷惑をかけないような時期や辞め方を考えることが、社会人としての常識とも言えます。
退職の相談ではなく退職のタイミングの相談をする
上司に相談する時によく失敗するのは「退職したいんですが」と退職の可否を相談してしまうことです。これは相手に拒否権がある前提の相談になりますから、退職を受け入れてもらえないケースを自分から用意してしまうようなものです。
正しい相談の仕方、切り出し方は、すでに辞めることは決断していて「会社に迷惑をかけないで辞めるタイミングはどうしたらよいのか」という方法です。これであれば、少なくともこちらからは相手の拒否権を認めていないことになりますから、「NO」が返ってくる確率は格段に減ります。
ただし「次の転職先への入社日が決まっている」など、退職日のリミットがある場合は、「日程の相談」の段階は既に過ぎています。その場合は、相談内容はさらに進めて「いついつに辞めますが、会社に迷惑にならないような引き継ぎ方法はどうしたらよいでしょうか」という「辞める段取り」の相談にしましょう。
穏便な退職のポイントは、「いかに上司、同僚、取引先、会社への迷惑を減らす方向で考えているか」というスタンスを示せるかどうかです。自分勝手さが少しでも出ると、上司は必ず退職の邪魔に入りますから、気をつけましょう。
労働条件、労働環境を退職理由にしない
また退職の意思を伝える場合、納得してもらうためには当然理由を付けなければなりません。しかし、そこに引き留める余地が残る内容するのはNGです。よくあるのは、給料や残業などや職場環境、同僚との人間関係などの労働条件を退職理由にしてしまうケースです。
その理由にしてしまうと、会社はそれを「改善」することができてしまい、それを交渉材料にして引き留めにかかってきて、退職を許してくれなくなります。
そしてもしも言ったすべての状況を本当に会社が改善させたら、やめる理由がなくなってしまいます。ですから「条件次第では残ってもいい」と本当に思っているのなければ、労働条件、労働環境を退職理由にすることは止めましょう。
会社が退職を了解しない5つのパターンと対処法
では以上のような段取りを踏んでも、会社が退職を了解してくれない場合はどのように対処したらよいのでしょか。その状況はすでに「穏便に辞める」ことが不可能だということですので、ある程度の強硬突破を含めた方法が必要です。ここでは会社の対応別にそれを解説します。
退職届を受理してくれない
まず退職届は必ず出しましょう。労働基準法では「退職の意思を伝えたあと2週間たてば退職できる」と規定されていて、その意思表示は口頭でもよいことになっています。しかし実際問題としては「言った言わない」の話になりがちです。ですから必ず書面で残しましょう。
その上で会社がそれを受理してくれない場合は、内容証明郵便で退職届を送付し、提出した証拠を残し、退職日をそれが会社に到着する日から2週間後にしておけば、辞めることができます。
希望する退職日よりもずっと先を指定される
一般的な就業規則では、退職をする場合届け出を1か月前にすること、と決められていることが多いです。しかし法律上は上記のようにさらに短く2週間前で可能です。にもかかわらず引き継ぎなどの理由で、もっと先の退職日を指定されてしまった場合は、それに従う必要はありません。
ただしこれは辞める本人の気持ちの問題もありますが、本当に会社にお世話になって、辞めるタイミングが次の人員補充などの関係で1ヶ月では足りない、という場合は自分の意思で、会社の指定に従うことも可能です。しかし、明らかに引き延ばしてその間に説得しよう、という意図が見えていたら、法律に従って2週間で辞めてしまう方が無難です。
懲戒解雇処分をチラつかせる
懲戒解雇処分にされると、離職票に「重責解雇」と書かれますし、履歴書にもその旨で書かなければならず、今後の転職活動上非常に大きな足かせになってしまいます。その上ほとんどの場合、退職金ももらえません。
しかし、懲戒解雇は従業員が就業規則に明記されている違反行為をしない限り、実行することができません。ですから「辞めるなら懲戒解雇処分にする」と言うのは単なる脅しです。
もしも仮に本当に懲戒解雇にされてしまった場合は、明らかな不当労働行為ですから、すぐに労働基準監督署や弁護士に相談し、撤回させましょう。
就業規則に基づく違約金の請求を示唆される
また就業規則に「届け出後3ヶ月以上経たないうちに退職する場合は違約金として10万円を支払う」などの記載があっても、それ自体が労働基準法違反の規定ですから、これも従う必要はありません。労働基準法では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めているからです。
それでも違約金を求められた場合は断固拒否し、逆に労働基準局に訴えて査察に入ってもらう意向をチラつかせましょう。労働基準法違反を犯した場合、最悪は経営者の逮捕になりますから、それで会社側はあきらめるはずです。
それでも万が一給与から違約金相当を天引きされてしまった場合は、本当に労働基準監督署に相談しましょう。
退職するなら損害賠償請求をすると言い始める
「退職するなら損害賠償請求する」と言われた場合もほとんどのケースでは支払う必要はありません。しかし、退職と会社の損害の因果関係が明らかにされてしまう場合は、裁判所によって支払いが認められる場合もあります。たとえばあるビジネスの責任者として採用されたにもかかわらず退職してしまうため、その取引が破談になって会社に損害を与えた、というようなケースです。
また損害賠償請求ではなく、研修費用の返却を要求されるケースもあります。これは会社の意思で用意した社内、社外の研修であれば支払う必要はありませんが、本人の希望によって会社の費用で受講した場合は、支払う義務が生じるケースもあります。
それでもだめなら2つの手段で強行突破
以上の方法でも会社が退職を認めてくれない場合は、以下の方法で強行突破しましょう。
退職願ではなく退職届を出す
まず確認するべきは、会社に退職を伝えた文書のタイトルが「退職願」になっていないかどうかです。これは会社に退職したいという依頼を出している文書なので、会社側にその決定権があり、労働基準法の「2週間経過ルール」を採用するのには無理があります。
しかし「退職届」で出してしまえば、会社の意思は入りようがなく、本人の意思表示から2週間で辞められますので、仮に「退職願」で出して受理されない場合は、改めて「退職届」を先に書いたように内容証明郵便で提出し、その日から2週間後に辞めてしまいましょう。
労働基準監督署に相談する
以上のような手段をとっても問題がこじれにこじれてしまった場合は最後の手段として、労働基準監督署に仲介依頼をしましょう。その際には、口頭で相談しても成立しますが、はっきり言って労働基準監督署も問題の大きな案件から手を付けますので、後回しにされたり、相手にされない可能性もなくはありません。
そうならないためには、まずこちらと会社側とのやり取りの詳細を、言った会話までも正確に「経緯書」の形で書類にして、労働基準監督署に提出しましょう。
また裁判になった場合には証拠として採用はされませんが、会社側とのやり取りをスマホの録音機能などで記録しておき、それを労働基準監督署の担当者に聞かせることも効果があります。
もしも、今までの録音がない場合は、録音の準備をして改めて再度会社側に退職を申し出て、「懲戒解雇にする」などの返答を記録してしまいましょう。それがあれば、労働基準監督署も腰を上げざるを得なくなります。
まとめ
働くこと、それに相応しい報酬をもらうことは労働者の権利ですが、辞めたい時に辞められることも法律で認められた労働者の権利です。ですから、会社が退職させてくれない場合でも、その労使関係に負けないで毅然と退職の道を選びましょう。
ただし、今後のことを考えると、穏便に辞めたほうが自分にとってメリットがあります。ですから、十分準備をして会社や上司がOKせざるを得ないように話を持って行き、できるだけ強行突破は避けましょう。