「デザイン性と使い勝手は相反するもの」そんな風に思っている方も多いでしょう。行為のデザインはこの原理に真っ向から反する考え方です。利用者の感情を分析した上で開発されたデザインは、マニュアルを読まなくても直感的に使えるものになります。
一昔前は分厚い説明書がついてくるのが当たり前でした。しかし、今同じような製品を販売しても顧客の心を動かすことは難しくなっています。購入者の行動からデザインを考えるとはどのようなことでしょうか?今回は、行為のデザインについて紹介します。
もくじ
徹底したユーザー目線!行為のデザイン
「行為のデザイン」とは、著者の村田智明氏が2015年に出版した『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』の中で提唱しているデザイン開発の考え方です。使い手の行動を想像して、初めて手にする製品でも迷うことなく使用できるデザインの実現を果たします。
動作を止めることなく使える製品は、シンプルな見た目で整ったデザインが多く、購入者の生活の一部になるようなものになっています。スマートフォンはマニュアルを読まなくても直感的に使える分かりやすいデザイン例です。
開発者目線で作られた製品とは大きくことなるデザインですが、使いやすさにこだわったデザインは、人と製品を自然に結びつけてくれるようなものになっています。購入者が迷うことなく触れられる製品は、生活の質を変えるような素晴らしい製品になります。
説明書不要で「使える」ものこそが行為のデザイン
テキストとちょっとしたイラストがついた分厚いマニュアル。製品の使い方を理解するために開発者がつけているものですが、行為のデザインの視点から言うと「熟考の足りないデザイン」になります。
行為のデザインでは、分厚いマニュアルや指示書がなくてもスムーズに使えるようなデザインが良いとされています。よく考えてみると分かりますが、機械の操作に疎い高齢者に分厚いマニュアルを渡しても、理解するには沢山の時間が必要になるでしょう。
若い世代は、そもそもマニュアルを読みたがらず、高齢者は理解に苦しむ。この点からも「そもそも説明書がなくても使えるもの」が求められていることが分かります。この穴を埋めて製品に価値を生み出すには、やはりデザインが大切なんですね。
行為のデザインから得られるメリット
使い手が尻込みすることなく使えるデザインは今までに数多くリリースされてきました。IT分野の製品やサービスなどはマニュアルなしで使えるものが非常に多く、サービスを通して様々な価値や未来を購入者に与えることができています。
行為のデザインで提唱されている視点を参考に製品を開発することで、開発者目線で作られた製品とは大きくことなるものを作り上げることができます。ここでは、行為のデザインから得られる製品開発におけるメリットを紹介します。
企業の開発力が向上して売上げアップに繋がる
行為のデザインをもとに製品開発を行うと、企業の開発力をアップさせることができます。その大きな理由は「製品の問題点を洗い出しやすくなる」からなんです。複数のフィルターに分かれたバグの修正を行うことによって、明確な修正点を洗い出していきます。
製品開発をする上で時間がかかる項目と言えば、度重なる修正でしょう。製品を届けたいターゲット層に対して最適なものを作り上げるには、何度も試行錯誤する必要があります。ここで妥協してしまうとありきたりな製品ができあがってしまうんです。
この問題を解決するため、行為のデザインでは8つの視点からバグの修正を行っていきます。全てのバグを修正することで素晴らしい商品が完成します。製品開発のスピードを上げるだけでなく企業の売上げアップにも繋げていくことができるんです。
ユーザー目線に立った商品開発ができる
行為のデザインの最大の目的でもあるのが「購入者目線で製品開発をすること」です。使う人の立場になって開発を行うことで、買ったその日から生活の一部になるような優秀な製品を作ることができるでしょう。
全ての分野で購入者目線のデザインが威力を発揮するわけではありません。しかし、日常生活で使用するような製品の場合、行為のデザインを参考にすることで、購入者の生活の質を向上させるような素晴らしい製品を作ることができるんです。
使う人の気持や日常を想像しながら製品開発をするのは、一見簡単なように感じますが深く追求していくことは難しく、開発者側のエゴが入ってしまいがちです。そんな難しい課題も分かりやすく説明しているのが行為のデザインなんです。
想像体験で改善する行為のデザイン思考法
行為のデザインでは、様々な視点から使いやすさを追求して製品のデザインを決定することを推奨しています。1つの視点だけでは立場の異なる購入者のニーズを満たすことはできないからです。より俯瞰的な視点を持つことが大切なんですね。
そのため、製品開発の段階で購入者が製品を使っている場面を想像することで、より深い視点で製品のデザインを決めていくことができるんです。ここからは、行為のデザインが持つ、製品開発における思考法を紹介します。
ユーザーの時間軸を考えてデザインを考案する
「使い手が製品をどのように使うのか?」この視点は開発者にとって非常に大切なポイントと言えるでしょう。製品を開封する場面をイメージすることで「このパッケージはもう少しシンプルのした方が良い」などのアイデアが湧いてくるでしょう。
製品を購入してから自然な流れで生活に溶け込んでいくまでを時間軸に沿って想像できれば、改善点は自ずと見えてきます。購入者の目線になって考える思考法は製品デザインに大きな変革をもたらします。
使用用途が全く同じ製品であっても、製品を開発する段階の思考法が違えばデザインは全く異なるものになります。製品が日常的に使われている場面を想像することで、より具体的な改善点が見つけられるんですね。
バグの修正で既成品をリノベーションする
行為のデザインは、新製品の開発だけではなく、既成品のリノベーションにも大きな効果を発揮します。過去に開発した製品を直感的に使うことのできる商品にうまえれ変わらせることができるのも、独自の思考法ならではのポイントです。
一般的には、開発が完了した製品を大きくリノベーションするのは困難です。眼の前に完成された製品があると新しいアイデアも出しにくく、前の開発者が社内にいる場合「気まずくて言えない…」なんて状況にも遭遇するでしょう。
しかし、行為のデザインを活用すると新しい目線で製品の改善点を見つけることができます。今まで気がつくことのできなかった問題点を「バグの修正」にそってより明確にしていくことができるんです。
行為を誘導するデザインを考案する
使い手の行動は、決まっているわけではありません。電気のスイッチのように一般的な形がある程度統一された製品は行動パターンが決まっていますが、新製品を販売する場合は、購入者に「行動を誘導させる」ようなデザインが好ましいと言えます。
頭で深く考えることなく、直感的なイメージで「このボタンを押してみよう」と思わせるようなデザインはユーザーの生活に深く溶け込むことができるでしょう。スマートフォンでは、片手で掴んだ時に自然と指が収まるポイントにボリュームや電源ボタンなどが配置されています。
製品を使用している最中に頭の中で「次はどうするんだっけ?」と考えるような製品を浸透させるのは困難です。行為のデザインによって購入者の行動を誘導できるようなデザインを生み出せれば、長く愛用される製品にすることができるでしょう。
まとめ
今回は、行為のデザインについて紹介しました。使い手の立場に立って開発を追求する方法は、今後もデザイン業界の重要な思考法として活用されていくでしょう。分厚いマニュアルを読まなければならない製品とは大きくことなる開発が可能です。
新製品の開発だけではなく、既成品をリノベーションすることにも効果を発揮する行為のデザインは幅広い分野で使用できる思考法になっています。分かりにくい改善点もバグの修正を使うことで明確な修正点を見いだせます。
購入者が初めて製品を手にした時の戸惑いや使用への不安を少しでも減らすことができれば、製品としてより完成度の高いものができあがります。使い手の時間軸まで計算した行為のデザインを活用して、洗練された製品開発に役立ててください。