最近、ビジネスの世界でもよく言われている「傾聴力」というものをご存知でしょうか?なかなか耳慣れない言葉ですので、はじめて聞かれた方も多いかもしれません。普段の会話の中で、「何を話したらいいのかわからない」「はじめての人と話すのは苦手だ」「話題がなくて会話が怖い」なんていうことはありませんでしょうか。
そこで注目されているのがこの「傾聴力」なんです。「傾聴力」の意味は、この漢字の成り立ちにあります。「聴く」という字は、耳と十、目、心で成り立っていますね。このように、耳だけではなく、目を十個と心で聞けということ。それだけ注意深く相手の様子を観察し、全身全霊で聞くということです。そうした「会話」に役立つ「傾聴力」について、その意味や方法、聴き方などを詳しく見ていきましょう。
もくじ
会話の基本、「傾聴力」の意味を確認してみましょう!
普段の会話に自信がない方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。とくに初対面の人と話すとなると、共通の話題もわかりませんし、何を話していいかわからないということはよくありますよね。ビジネスや営業、接待でとなると、黙っているわけにもいきませんし、重要な悩みごとの一つになります。ほかにも、部下と年の差が離れていて会話が成立しないとか、上司に飲み会に誘われたが何を話していいのかわからないなど、ビジネスの一つひとつをとっても、「会話」は重要な要素となっています。
もちろん、商談やプレゼンといったビジネス上の勝負所でも、普段の会話をうまくこなせていることが大切になってきますよね。こうしたことのないように、誰とでも失礼のないようにうまく会話することができないだろうかとお悩みの人もたくさんいると思います。
そこで最近ビジネスの世界でも注目されているのが「傾聴力」です。まず、親しい人との会話を思い出してほしいのですが、相手の話を最後まで聞くことはできているでしょうか。とても簡単そうですが、これがなかなかできないのです。「できるよ!」と思った方は、誰でもいいので試してみてください。相手の話を最後まで聞くことの難しさがよくわかるはずです。どうしても、途中で口をはさみたくなるのです。
「傾聴力」のスタート地点はここです。「相手の話を最後まで聞く」ということ。「実は、この前の仕事ミスしてしまったんです」と切り出されたら、「ほらやっぱり! あれほど言ったのに!」とか、「だから言ったでしょ」など、どうしても言いたいことがでてきませんか?家庭でも、子どもに「この前のテスト……」と切り出されたら、「どうだったんだ。きちんとできたのか? 赤点じゃないだろうな」などと口をはさんでしまいますよね。
とくに家族などと話す場合、男性は意見を否定する傾向があります。奥様に「今年は巨人が強いわね」などと言われると、確かに巨人が強いにもかかわらず「おまえはわかっていないな。巨人はだいたい今頃から調子を崩すんだ」などというものです。何日かあとに「今年は巨人が強いなぁ」と言うと「この前私がそう言ったら、これから調子を崩すんだって言ってたじゃない」と言われたりしますよね。こうしたことのないように、「まずは相手の話を最後まで口を挟まずに聞く」。これが「傾聴力」の大切なポイントです。
それでは、相手の話が終わるまで、ただ黙って聞いていればいいのかというと、それは「傾聴力」とはいいません。
傾聴力を高めるのは相槌とオウム返しの実践が重要!
テクニックの一つ目は「相槌を打つこと」。「うん」「へぇ」「そうなんだ」「なるほどね」など、相手の話にうまく相槌を打ち、話を引き出すこと。これが「傾聴力」に求められるテクニックの一つ目です。
さらにテクニックの二つ目は「オウム返しをすること」。「あのときは250ヤードは飛んだね」「250ヤードも飛んだんですか!」といった具合に相手の話を繰り返すことで話のテンポを作り、かつ相手の気分を盛り上げることが大切です。
悪い例では、「連続でOBを出しちゃって」「連続でOBですか!」という例です。いい話は繰り返すとテンションが上がりますが、悪い話は繰り返されるとムッとします。こうしたテクニックを駆使して、相手の心の壁を上手に取り去って、本音で話をしてもらうこと。これが「傾聴力」です。相手が思ってもみなかったことを、うっかり話してしまうような、話を引き出す力のことです。
ビジネスの世界だけでなく、介護や医療でも求められている傾聴力
この「傾聴力」は、今、介護の世界で最も求められているスキルです。というのも、介護業界では、高齢化社会に比例して認知症の方と接する機会も多くなってきます。こうした認知症の方と接するうえで、この「傾聴力」が大変役に立っているのです。
認知症対策の一つの方法として、フランスで生まれた「ユマニチュード」という考え方があります。その基本は「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの項目からできています。まずは、「相手の目を見る」ということ。「目線を合わせる」と捉えてもいいかも知れません。相手の方とお話しするときに、まず「目線を合わせる」ということが大切なのです。
ユマニチュードでは、相手がベッドで横になっておられる場合など、壁などが邪魔で目線が合わせられない場合、ベッドを動かしてでも「目線を合わせて」話をします。それほど、「会話」をするのに「目線を合わせること」を重要視しているのです。その意味は、「木石ではなく、人間と話をしているからだ」といいます。
そして、「話す」ということ。これは、先ほどお話したように、「相槌を打つ」「オウム返しをする」などのスキルを用いての会話になります。基本的には「相手の話を聞く」ことにメインがあり、こちらからお伝えすることはほとんどしません。さらに「触れる」では、相手の手を握ったり、背中をさすったりし、安心を感じてもらいます。
また、ユマニチュードの場合、認知症の対策ですので「立つ」という項目もあります。認知症の方は足の悪い方が多く、立つことが少ないとのこと。こうした方に「立ってもらう」ことで、人間としての尊厳を取り戻してもらい、認知症を改善に導くというのです。
「聞く」「聴く」「訊く」の違いと、傾聴力を用いることの意味
ユマニチュードは、認知症対策に用いられる技術ですが、これは営業やビジネスの現場でも十分に使えるスキルです。相手と目線を合わせることで、「あなたに話しています」ということを暗に示しています。相槌やオウム返しで、「あなたの話をもっと聞かせてください」という思いを伝えるわけです。
これは、単に「聞く」とは違います。目線を合わせず、音をキャッチするだけの会話であれば「聞く」と言えるかもしれませんが、全身を使って、目線を合わせ、身体に触れ、心で聴くことを心がけるのが「聴く」ということです。また、質問する、尋ねるといった「訊く」とも違っているのです。
持てる能力をすべて動員して相手から聴くことの意味は、「相手を理解したい」という心にあります。認知症などの原因は、「拒否、否定」されることからはじまっているという考えからユマニチュードは出来上がっています。目線を合わせずに話しかけることは「相手を否定、拒否している」と思わせる要素があるというわけです。傾聴力のスキルは、相手を否定せず、拒否せず、受け入れて理解しようとしていることを示すためのスキルなのです。
アクティブリスニングとユマニチュード
傾聴力は英訳すると「アクティブリスニング」と訳されることがあります。これは「コーチング」などに用いられる技術でもあり、相手の話をこちらの意図する目標に着地させることもできる技術であるといえます。傾聴力の意味とは、相手を理解することであり、相手の話したいと思っていることを聴くことにあります。そういった意味で、相手の話したい内容を予測し、それを引き出して誘導する技術と言えるでしょう。これはかなり技術のいるものです。
ユマニチュードとの違いは、ユマニチュードは相手を受け入れていることをメインに置く一方、アクティブリスニングでは、相手の潜在意識で話したいと思っていることを引き出すことにあります。傾聴力には、こうしたスキルの段階もあるといえるのです。
まとめ
傾聴力は相手を受け入れることからはじまります。相手を拒否せず、否定せず、受け入れて理解することが目的です。拒否された、否定されたと感じさせることも許されません。しぐさ、目線、姿勢など、まさに全身全霊で行うべきものであるのです。
イスにふんぞり返って、腕を組み、足を組んで「さぁ話してみろ」と言われて、心を開いて話せるでしょうか。やはり、前のめりで、目線を合わせて笑顔でといった会話の姿勢から、傾聴力ははじまっているわけです。
そのため、慣れるまでは難しいかもしれませんが、その心において、相手を思いやる気持ちがあれば、自然とできるものです。片手間にするものではなく、相手との会話のためにきちんと時間を割いてみましょう。こうした会話に対する姿勢が傾聴力となり、これは信頼関係を築くうえで大きな武器となるスキルなのです。